みなさんはブロックチェーンと聞いてどんなものを思いつくでしょうか?ブロックチェーンと聞くと暗号資産等の金融分野に活用される技術、と想像する方も多いかもしれません。
しかし、金融以外の分野にも身近な活用が期待される技術であることは深く知られていないのではないでしょうか。本記事ではブロックチェーンの基礎から、導入のメリットを解説するとともに、公的機関や企業での活用事例を紹介します。
この記事でわかること
※【掲載団体様を随時募集】
本記事では自治体および企業のブロックチェーンの取り組みを募集しております。
事例でのご紹介を希望される方は下記のメールアドレスへご連絡ください。
この記事を読めば
「ブロックチェーンがどのようなことに使われているのか知りたい!」
「ブロックチェーン技術を利用した地方創生、地方活性化が気になる」
という方々の疑問を解決できるでしょう。
また、自治体や企業、ビジネス等におけるブロックチェーンの活用方法についてみなさんも考える良い機会になると思います。
地方自治体が抱える問題点
2014年に日本創生会議が発表したレポートでの地方消滅都市という言葉が衝撃を与え、それを背景に政府の政策としても地方創生が意識され始めました。持続可能な自治体のために何が必要なのか注目されるようになったタイミングとも言えるかもしれません。
しかし、近年もなお首都圏への一極集中が進み、地方自治体の多くは人口減少や高齢化等の問題を抱えています。生産年齢人口が減少し、限られた労働力、資本の中で運営するためにはより一層、業務の効率化を進めなければなりません。
ブロックチェーンが促進する地方創生
では、地方の課題に対してブロックチェーンはどのような形で影響を及ぼすのでしょうか。
「ブロックチェーンのビジネスモデル・導入例」で紹介するような国や自治体でも実証実験の取り組みが広まりつつあることからも分かるように、ブロックチェーン技術がこれまでの技術では解決できなかった社会の既存課題を解決するための手段として期待されています。
地域の社会課題解決を考えるうえで何か革新的な方法を模索している方々もいるのではないでしょうか。そのような方々にブロックチェーン技術が選択肢の一つになれるよう、魅力を分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
そもそもブロックチェーンとは?
ブロックチェーンとは、情報を記録・管理するための技術です。取引の情報をブロックというまとまりで管理し、それらを鎖状にして分散管理していることからブロックチェーンと呼ばれます。
記録された取引情報の全部、あるいは一部を利用者全員が共有し、保存・管理しているのです。これこそがブロックチェーンであり、誰が、いつ、どのような情報を記録したのか明確にして共有し、偽造できないような形で保存・管理する技術になります。
構造はシンプルでありながらも、データの改ざんに強いことから暗号資産の取引の記録にブロックチェーンが使われています。
ブロックチェーンの市場規模
ブロックチェーン技術を活用するといっても市場の現在の立ち位置を理解しなくては導入へのイメージがわきにくいかもしれません。まずはブロックチェーンの市場規模を把握することで将来性を確認しておきましょう。
国内の研究所は2020年で100〜200億とされている国内市場規模は2025年には1000億を超えるとの予測を立てています。経済産業省が発表した資料では、ブロックチェーン技術関連の国内市場は67兆円もの潜在規模があるとしており、近い将来の大きな市場成長が見込まれています。
参考:経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」
また、ブロックチェーン関連企業の設立数、投資金額も年々増加傾向にあります。企業数については、2020年時点で430社に達するとされる国内の仮想通貨・ブロックチェーン関連企業のうち150社はスタートアップ企業に分類されるといいます。
環境整備については政府が新しい資本主義の核としてWeb3.0を掲げ、「骨太方針2022」にはweb3.0促進に向けた環境整備が明記され、国として税制や法改正を行う方針を提言しました。
地方自治体や企業がブロックチェーンを導入するメリット
ブロックチェーン市場の拡大の背景には、ブロックチェーンの活用にいくつかの利点があることが考えられます。ここでは導入のメリットについて紹介します。
自治体や企業がブロックチェーンを導入するメリットは4つあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
運用コスト削減
従来の中央集権型のサーバクライアント方式では処理がサーバに集中するため高スペックのサーバを用意する必要があります。ブロックチェーンはP2P方式なので、取引に関係するあらゆるノードが処理を受け持つ分、高スペックなサーバーなどを用意する必要がありません。
したがって運用コストの削減が実現されている分、金融業界や不動産業界、役所等の公共機関からも様々な需要があります。
ハッシュ値 不正・改ざんがしづらい
個々の取引記録(トランザクション)はハッシュ関数という特殊な関数によって置き換えられます。
ハッシュ関数とは、規則性のない一定の長さの文字列(ハッシュ値)に置き換える関数のことを言います。ハッシュ値は、入力するデータをわずかにでも変えると全く異なるハッシュ値が導き出されます。ハッシュ値から元データを割り出すことができないことから、不可逆的であり、不正・改ざんが難しいとされています。
スマートコントラクト 契約業務の効率化
スマートコントラクトとは人の手を解さずに契約内容を自動で実行してくれる仕組みのことです。ブロックチェーン技術の利用により、「契約内容が改ざんされない」「中央管理者を介在させず、契約内容が自動で実行される」という二つの条件を満たすことができます。
契約内容とその実行条件をあらかじめプログラミングしておくことが可能であるために、取引期間の短縮化や人件費の削減などが期待されるのがスマートコントラクトのメリットです。
P2P システムの安定性
P2Pシステムとは、複数のコンピューターがデータを分散して情報共有するシステムのことです。
従来の中央集権のクライアントサーバシステムでは、中央のサーバにデータを一極集中で管理するため、一つのサーバがダウンするなどの不具合が起こった場合、システム全体の停止に至る可能性があります。
一方で、P2Pシステムの場合は、中央のサーバにデータを一極集中で管理することはないので、一つのサーバがダウンするなどの不具合が起こってもシステム全体の停止には至ることはありません。
したがって、情報の分散管理によりシステム全体の安定性が高いといえます。
ブロックチェーンのビジネスモデル ・導入例
参考:経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」
ブロックチェーンのメリットが分かっても実際にはどのように活用されるのかイメージがわかない方が多いのではないでしょうか。
次は実際にどのようなビジネスモデルが考えられるのか事例とともに紹介します。
ブロックチェーン技術の展開が有望な事例としてどのようなものがあげられるのでしょうか。経済産業省が公表する資料では上図のような例があげられています。
これをみてもわかるように、ブロックチェーン技術は産業構造へ影響を与える可能性があり、私たちの生活に身近な分野において幅広い活用の可能性があると考えられます。
以下では具体的に導入や実証実験に至っている例を紹介したいと思います。
参考:基礎自治体におけるプロックチェーン技術の活用に関する調査研究 | 公益社団法人東京市町村自治調査会
【福岡県飯塚市】 住民票等各種証明書のデジタル化
福岡県飯塚市では住民票等各種証明書の「申請」「交付」を住民所有の端末から作成可能とする仕組みの実証実験を行っています。一般に行政文書の電子交付では紙の文書に相違ない証明性を保つことが困難であるという課題があります。
そこでブロックチェーン技術を活用し、不正改ざんを見つけやすくすることで電子文書の信頼性の保証を実現しています。窓口での手続きが必要ないことから、コロナ禍による非接触の行政サービスとしても期待されます。
参考:飯塚市のブロックチェーンの取組 | 飯塚市公式ホームページ
【長崎県長崎市】契約事務のデジタル化
2021年9月、長崎市は東芝デジタルソリューションズ株式会社とブロックチェーンを活用した契約事務のデジタル化に関する連携協定を締結しています。東芝デジタルソリューションズ株式会社が長崎市に導入している電子調達システムとブロックチェーンを連携させ、電子契約システムを構築しました。
契約事務手続きの効率化とコロナ禍における接触機会の削減を目的として導入実験を行っており、電子契約システムを通じて決済記録や届出の申請など社会全体のデジタル化を促進することが期待されます。
出典:長崎市理財部契約検査課「長崎市電子契約システムの実証実験について」
【熊本県熊本市】 行政文書を安全かつ透明性の高い情報として公開
行政が保有する情報のオープン化を国から推進されている中で、熊本市では行政文書を安全かつ透明性の高い情報として公開し二次利用の促進を図るため、ブロックチェーン技術を応用した実証実験を行っています。文書開示時に生成されたハッシュ値と文書照合時に生成したハッシュ値とを比較することで改ざんを検知することが可能になります。
この仕組みの活用により、業務負荷軽減・利便性向上等の効率化に加え、行政文書改ざんなどの内部不正の抑止効果が期待されます。
【佐賀県佐賀市】 ごみ発電電力の地産地消による環境価値を電子証書化
2010年に環境都市宣言を行い「地域循環共生圏」を推進している佐賀市。その共生圏内で生まれた環境価値をブロックチェーン技術で可視化するシステムの構築を検証し、一部導入しています。
具体的には、佐賀市清掃工場でのバイオマス発電や公共施設での再生可能エネルギーの電気供給実績をブロックチェーンに記録し、電力の地産地消を証明する「環境価値証書」を発行しています。地域の「資源循環」「炭素循環」を確認できることで地域住民の行動変容を促し、証明された環境価値が魅力として地域の活性化にもつながることが期待されます。
【石川県加賀市】 マイナンバーカードとブロックチェーンを活用した行政 サービスの提供
加賀市は2018年に「ブロックチェーン都市宣言」を発表し、ICTの活用でのスマートシティ化による地域課題解決を目指しています。その中でもブロックチェーン技術を活用した幅広い電子行政サービスを検討しています。
スマートフォンとマイナンバーを紐づけし、市民の持つ端末から投票できる電子投票システムや、住民票を持たないながらもマイナンバーとの紐づけで市内各種サービスを受けることができる電子市民制度の実証に至っています。
今後の地方創生で重要視される関係人口の拡大に期待されるサービスだといえます。
加賀市、コロナワクチンの質問をチャットボットで対応。 | aismiley
【福島県磐梯町】 地域商品券をスマホアプリによって発行
磐梯市では2020年よりデジタル変革戦略室を設け、デジタル技術も活用し町民本位の行政・地域・社会の再デザインに取り組んでいます。
会津大学ですでに導入されていた地域通貨「白虎」を応用し、2021年に商工業の更なる地域活性化を目的として「磐梯町とくとくデジタル商品券」を発行しました。端末のアプリにチャージした金額の25%がポイントとして割増しで付与されるもので、(紙で発行されている商品券では割増しの割合は20%)利便性やコスト削減、高いセキュリティの観点からブロックチェーン技術が生かされています。
町民のアプリ決済の土台が定まりつつある中で、今後、地域通貨「ばんだいコイン」の運用に至る磐梯町の取り組みにも期待できます。
参考:世界最先端のブロックチェーンの技術を活用した「磐梯デジタルとくとく商品券」販売開始 | 磐梯町公式ホームページ
【兵庫県養父市】 吉本興業とコラボした地方創生型メタバース
吉本興業株式会社との連携協定のもと、養父市はメタバース「バーチャルやぶ」をオープンしました。
メタバース内において、市内の観光名所やかつて栄えた明延鉱山のワールドなど体験型コンテンツを用いて市の魅力を発信しています。また、メタバース上には養父市役所も再現されており、「メタバース市民証」なるものも発行することが可能です。
地域の魅力発信に加えて、人々の交流拠点を設ける観点からもつながりの創出が期待されます。
参考:メタバース「バーチャルやぶ」オープン | 養父市公式ホームページ
【株式会社ルーラ】 観光促進型デジタル通貨サービスルーラコイン
出典:ルーラコイン
株式会社ルーラでは、全国の観光地や温泉地のみで使える地域活性化を目的とした日本初の観光促進型デジタル通貨サービス「ルーラコイン」事業を立ち上げています。
2022年7月時点で12地域91店舗と連携し、全国で横断的に使えるデジタル通貨であることから特定の地域でしか使えないといった地域通貨の弱みを観光地、温泉地の連携により克服しています。
ルーラコインのみによってしか購入できない宿泊プランやアクティビティを提供することで独自性を生み、金額では測れない地域の魅力の創出につながっているといえます。
【株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング】水産物のトレーサビリティ
出典:ホヤの朝獲れをブロックチェーンで追跡、水産資源のトレーサビリティ向上に期待
新たな水産業の形を目指す株式会社フィッシャーマンジャパンマーケティング(宮城県石巻市)は2020年にホヤの産地と鮮度を証明する仕組みとして、株式会社chaintopeのトレーサビリティシステムを採用し、実証実験を行いました。
産地や鮮度がきわめて重要であるホヤにブロックチェーンを活用したトレーサビリティシステムを用いることで、商品の適正な管理を消費者に認知してもらい値段以外の価値基準の付与を目的としています。
消費者が端末から簡単にサプライチェーンを確認でき、消費者に安心安全を提供するシステムとして魅力的であると言えます。
参考:Fisherman japan|フィッシャーマン・ジャパン 公式サイト
まとめ
ここまでブロックチェーンの導入メリットからいくつかの活用事例まで紹介してきました。
これらからも分かるようにブロックチェーンの活用方法は考え方によって多岐にわたります。
ブロックチェーンの活用が自治体や企業の既存課題解決の手段の一つとして考えられる場は今後より拡大すると考えられます。
金融・投機に限らず、様々な分野における新たな価値交換の形がすぐそこまで来ているのかもしれません。