ビットコインNFTとは?「Ordinals」が実現するNFTの特徴と仕組みについて解説

ビットコインNFTとは、ビットコイン(BTC)のブロックチェーン上で構築できる代替不可能なトークンのことです。2023年2月末には「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」などのNFTを手掛けるYuga LabsがビットコインNFTコレクションである「TwelveFold」のオークションを開催し、たった24時間で合計735BTC、1,650万ドル(約22.3億円)という金額を稼ぎ出しました。

この記事ではビットコインNFTの特徴や仕組み、実際の発行手順などに加え、ビットコインNFTを実現するプロジェクトである「Ordinals」や現状の課題、今後の予想についてわかりやすく解説していきます。

この記事でわかること

 

寄稿者Levine

 

I am a researcher and Investment associate at Coincheck Labs. I founded a crypto venture and worked as a trader and researcher at Coincheck. On my days off, I study poker.

Twitter: @levine_777  

ビットコインNFT(Inscriptions)とは?

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ビットコインNFTとは、ビットコイン(BTC)ブロックチェーン上で構築できる代替不可能なトークンのことです。

通常、NFTはイーサリアム(ETH)のブロックチェーン上で構築されますが、ビットコインNFTは「イーサリアムではなくビットコインのブロックチェーン上で構築される」という点で、従来のNFTとは一線を画すものとなっています。

ビットコインNFTは、別名「Inscriptions(碑文)」とも呼ばれ、そのInscriptionsを実現させるためのプロジェクトの名前が「Ordinals(序数)」です。(※ただし、実際にはこの2つの名称を区別せず、ビットコインNFTのことを「Ordinals」と読んでいる場合も多い。)

また、Inscriptionsを作成するオープンソースコードのことを「ord」と言います。

ビットコインNFTの特徴

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では、ビットコインNFTと従来のNFT(イーサリアムNFT)は、一体何が違うのでしょうか。ここでは、従来のNFTと比較した際のビットコインNFTの特徴を2つ挙げます。

  1. NFTの画像データがブロックチェーン上に保存されている
  2. Inscriptionsが共通規格として、正式にビットコインコミュニティに支持されているわけではない

以下で詳しく解説していきます。

特徴① NFTの画像データがブロックチェーン上に保存されている

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1つ目の特徴は「NFTの画像データがブロックチェーン上に保存されている点」です。

ビットコインNFT(Inscriptions)は、全ての情報をビットコイン上に記録しているため、ビットコイン(BTC)が無くならない限りいつでも誰でもその存在を確認できます。

一方でイーサリアム上にあるNFTの多くは、画像データを自社のサーバーやIPFS(分散型ストレージプロトコル)などに保存し、イーサリアム上にはその画像データの保存場所(主にURLなど)しか保存していません。そのため、NFTプロジェクトの運営側やIPFS自体が無くなってしまうと、NFTの画像データが紛失されることになってしまいます。

もちろん、イーサリアム上にも全ての情報をブロックチェーン上に記録しているNFTは存在します。例えばイーサリアムチェーンを基盤にしているコレクタブルNFTの「CryptoPunks(クリプトパンクス)」は、NFTの画像データをブロックチェーン上に保存しています。(これをフルオンチェーンと言います。)

しかし、ほとんどのNFTプロジェクトでは、イーサリアム上にNFTの画像データを保存していません。なぜなら、イーサリアム上で構築されるフルオンチェーンNFTはビットコインNFTと比べ、約100倍ものコストがかかるからです。

以下の表は、ビットコインとイーサリアムにおいて、フルオンチェーンで画像データを100KB書き込むコストを比較したものです。

100KB書き込むのにかかるコスト
ビットコインNFT 約7.5〜15ドル(約1,000円〜2,000円)
イーサリアムNFT 約775〜1,550ドル(約10万5,000〜20万9,000円)

※100KBのデータを書き込むのに必要なガス量を0.7億Gas、Gas(手数料水準)レートを10〜20Gwei、ETH価格を1,550ドル、1ドル=135円と仮定した場合

このように、イーサリアム上ではビットコイン上と比較して、フルオンチェーンNFTを発行するためのコストが高くなります。そのため、現状のイーサリアムNFTにおいてフルオンチェーンNFTは限られている一方で、コストの安いビットコインNFTでは、全てにフルオンチェーンが採用されています。これが、イーサリアムNFTとビットコインNFTの1つ目の違いです。

特徴②Inscriptionsが共通規格として、正式にビットコインコミュニティに支持されているわけではない

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引用:Ordinals

2つ目の特徴は「Inscriptionsが共通規格として、正式にビットコインコミュニティに支持されているわけではない」という点です。

従来のNFT(イーサリアムNFT)上では、NFTを表現する上で必要な共通規格(ERC721など)が多く存在しています。そのため、多くのエクスプローラー、ウォレットや取引所などでNFTを復元し、確認することができます。

一方でビットコインNFT(Inscriptions)は、まだ正式にビットコインコミュニティに共通規格として支持されているわけではなく、NFTを確認するためには公式が提供する専用のエクスプローラーを利用するか、公式から提供されているコードから自分(ローカル)でホストする必要があります。

しかし、ビットコインNFTに関するデータそのものは、誰でもエクスプローラーから閲覧できるため、誰でもNFTを復元し、確認することが可能です。以上の点が、イーサリアムNFTとビットコインNFTの2つ目の違いです。

Ordinalsの開発者について

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参考:Casey Rodarmor

2022年、ソフトウェアエンジニアのCasey Rodarmor(@rodarmor)氏はビットコインNFTを実現するOrdinalsプロジェクトをスタートしました。

Rodarmor氏は、2010年からGoogleにてエンジニアとしてのキャリアをスタートさせました。その後いくつかの企業を渡り歩いたあと、2022年からOrdinalsプロジェクトにフルタイムで取り組んでいます。

Ordinals開発のきっかけ

Rodarmor氏は、ビットコインの生みの親とされるサトシ・ナカモトが、初期のビットコインに関するコードの中で「アトム」というシステムを組み入れようとしていたことを知り、そこからOrdinals開発の構想を閃いたと語っています。

サトシ・ナカモトが導入しようとしていたアトムとは、それぞれが持つbtcアドレスに(nAtom)といったレートを割り振り、レビューというメッセージ機能で分散型取引所を実現しようと模索していたコードです。

Ordinalsでも、このレートを各アドレスに割り振った(=序数)上で、そのレートを起点に追加の機能(=ord)を実装するといった具合に、Rodarmor氏がアトムと同様のモデルを採用している事が窺えます。

ビットコインNFTの仕組み

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ビットコインNFT(Inscriptions)が発行される仕組みを簡単に説明すると、次のようになります。

  1. 初期から今日に至るまで発行されたビットコイン全てに順番を表す数字(序数)を割り振る
  2. これで個々のビットコインがそれぞれユニークな数字を持つ
  3. そして、特定のビットコインに対し、画像などのデータをスクリプトとして書き込み(紐付け)する事でビットコインNFT(Inscriptions)が作られる

例えば上記画像のように、Aというウォレットに入っているbc1a~というアドレスに入っているBTCに対してペンギンの画像を紐づける事で、ペンギンのビットコインNFT(Inscriptions)が作られます。

ビットコインNFTに利用されている2つの技術

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ビットコインNFTでは「Segwit(セグウィット)」と「Schnorr(シュノア)」という2つの署名方式を組み合わせて採用しています。これにより、ビットコイン上で遥かに低いコストでフルオンチェーンNFTを発行できています。

以下では、この2つの署名方式について解説しています。

SegWit(セグウィット)

スケーラビリティ問題

SegWit(セグウィット)とは、2017年8月にビットコインに実装された大型アップデートです。SegWitはトランザクション情報をコンパクトに圧縮できるという特徴を持っており、ビットコインの抱えているスケーラビリティ問題を解決する可能性があると期待されている技術です。

そもそもスケーラビリティ問題とは、ビットコインの取引量が増えることによって送金に時間がかかったり、送金要求が承認されなかったり、取引手数料が高騰するといった一連の問題のことを指します。

SegWitが導入される前、ビットコインでは「Legacy(レガシー)」という署名方式を採用していました。Legacyではビットコインの取引データ領域にデータを記録していましたが、Segwit方式ではWitness(ウィットネス)と呼ばれる「取引データ領域とは別の独立した領域」を利用して署名を行うことができます。

Segwit方式では、Legacy領域と比較して書き込むデータコストが4分の1で済み、さらに1ブロックに詰め込むことができる最大データの容量が4倍(4MB相当)になるというメリットがあります。

Schnorr(シュノア)

Schnorr(シュノア)とは、2021年11月に実施されたビットコインの大型アップデート「Taproot(タップルート)」にて導入された署名方式の1つです。シュノア署名の導入により、複数のアドレスからの送金を1つのものとして署名することができるようになりました。

この機能により、実際は複数のアドレスから送金している取引を単一のものとして扱うことができ、プライバシーの確保及び取引にかかるデータ量を削減できるようになりました。

以上2つの署名方式を組み合わせて採用することで、1トランザクションで最大4MB相当のデータ(Inscriptins)を安価に作成することができるようになりました。

ビットコインNFTを実際に発行する5つの手順


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引用:YouTube

ビットコインNFT(Inscriptions)を発行するには、上記動画に沿って5つの手順で行うことができます。(※この動画は有志によって作成された、Windowsユーザー向けの動画です)

  1. ビットコイン上にノードを建てる
  2. Bitcoind(開発環境)でブロックを再度インデックス
  3. ordをインストールし、再度ブロックを同期
  4. ord上でウォレット作成
  5. Inscription開始

ただし、ビットコインNFTの発行までには、様々な処理が必要となり最短でも1日以上時間を要してしまうことに注意してください。
また、Ordinalsの開発者自身がビットコインNFTの発行方法を解説したMacOS向けの動画もあるので、こちらもご参照ください。

ビットコインNFTの具体的な発行コスト

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ビットコインNFTの具体的な発行コストは、画像データ100KBの書き込みにつき、通常「約7.5〜15ドル」です。

ビットコインNFTの発行コストは手数料相場に大きく左右され、2satoshi/vBで試算すると上記のコストとなります。高い手数料(およそ20satoshi/vB以上)を払えばすぐに発行できる一方で、発行までに時間がかかっても問題ないのであれば、安い手数料でイーサリアムNFTよりも安価に発行することができます。また、最安の手数料水準である1satoshi/vBの場合は、さらに半額である7.5ドルで100KBのビットコインNFT(Inscriptions)を発行できます。

注意点としては、ビットコインの価格が上がれば15ドル以上の手数料がかかってしまう可能性もあります。そのため、必ずMempool(メンプール)の取引手数料水準を確認した上で、適切な手数料レートを設定するようにしましょう。

ビットコインNFTに関連したサービス

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2023年3月現在、ビットコインNFT(Inscriptions)の注目が高まってきており、関連するサービスも次々と登場してきています。以下の表では、ビットコインNFTに関連するサービスをまとめています。

サービス内容 プロトコル名
発行代行 ・Gamma
・InscribeNow.io
・OrdinalsBot
マーケットプレイス ・Gamma
・ordinals.market
・ORDSWAP
ウォレット ・Bitcoin wallet for web3
・Sparrow Bitcoin Wallet

ビットコインNFTの課題と今後の予想

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ここからは、ビットコインNFT(Inscriptions)の課題と今後の予想について、私の考えを述べていきます。

2023年1月ごろにOrdinalsプロジェクトの話題が拡散され始めたときには、まだビットコインNFT(Inscriptions)の認知度も低く、一部の人々の間でしか盛り上がっていませんでした。しかしながら、2023年2月末になるとBAYCなどで有名なYugaLabsがTwelveFoldというInscriptionsコレクションを発売する事を公表し、ビットコインNFTへの注目が高まりました。

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引用:@yugalabs

結果としてYugaLabsは、たった24時間で合計735BTC、1,650万ドル(約22.3億円)という金額を稼ぎ出し、初となるビットコインNFTのオークションは大成功のうちに幕を閉じました。

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引用:@tropoFarmer

現在、InscriptionsはNFTという使われ方をしていますが、今後はBTC自体を検閲されない永続的記録媒体として活用してくるプロトコルや個人などもいるのではないかと私は推測しています。その一環としてか、フルオンチェーンではないイーサリアムNFTをBurnして、Inscriptionsとして発行するという試みも行われています。

その一方で、まだまだビットコインNFTは多くの課題を抱えており、具体的には次のような課題を解決できるかどうかが今後のビットコインNFTの明暗を分けると考えています。

【ビットコインNFTが抱える課題】

  1. ウォッシュトレードが横行している
  2. 参入障壁が高い
  3. ビットコインコミュニティ内でも賛否が分かれている

課題①ウォッシュトレードが横行している

1つ目の課題は「ウォッシュトレードが横行している」という点です。

ウォッシュトレードとは、マーケティング施策や価格を釣り上げる事を目的に、自己や友人間などで高値での取引事例を作り、フロア価格を操作する取引のことです。多くの伝統的な金融市場において、ウォッシュトレードは需要の本当の水準について市場に誤った印象を与え、金融商品の価格を歪めることにつながるため禁止されている。一方で暗号資産市場やNFT市場ではまだウォッシュトレードの規制がかかっておらず、今でも多くのウォッシュトレードがNFT市場で行われています。

もちろんウォッシュトレードが行われているのはビットコインNFT(Inscriptions)に限らず、イーサリアムNFTを含めたNFT市場全体の課題です。健全なNFT市場を創っていくためにも、規制当局による適切な規制やウォッシュトレードを分析し警告するツールやプロトコルなどが必要になってくるでしょう。

課題②参入障壁が高い

2つ目の課題は「参入障壁が高い」という点です。

ビットコインNFTは、イーサリアムNFTと比較してもNFTの作成や送受信、売買を慣れていない人が行うにはまだまだハードルが高いです。今後、ビットコインNFTが一般にも普及していくためには、よりわかりやすいUI/UXを持ったプロトコルなどが提供される必要があるでしょう。

課題③ビットコインコミュニティ内でも賛否が分かれている

3つ目の課題は「ビットコインコミュニティ内でも賛否が分かれている」という点です。

ビットコインNFT(Inscriptions)はまだ歴史が浅く、ビットコインコミュニティ内でも賛否が分かれている状態です。以下では、ビットコインNFTに反対派の意見と賛成派の意見についてまとめています。

反対派の意見

ビットコインNFT(Inscriptions)に反対している人の意見として「ビットコインNFTは取引手数料競争において有利すぎることで、取引手数料高騰やネットワーク攻撃へつながる」という懸念があります。

ビットコインNFTは、通常の送金トランザクションなどに比べて、4分の1のコストかつブロックサイズ目一杯までの容量を含んだトランザクションを送信できます。そのため、ブロック内容量を安価に寡占することにつながるという意見があるのです。

また、反対派の意見としては「フルノードを建て続けるコストが増大し、ネットワークの堅牢性が損なわれる」というものもあります。

ビットコインにおいては、ジェネシスブロック(最初のブロック)から今日に至るまでの全ての取引データを保持および検証しているフルノードを建てて、ビットコインネットワーク維持に貢献している人々(フルノーダー)がいます。彼らにかかってくるコストはサーバーやPCなど処理端末の電気代に加え、毎日増えていく取引データを保持するストレージコストがあります。

しかし、Ordinalsの影響で平均的ブロックの大きさが今までの2MB以下から4MB以下へ増えた場合、データ増量速度が倍になり、フルノーダー達はストレージを確保するために設備投資を行う必要が出てきます。

そうなると、報酬が貰えないボランティアで運営されているフルノーダーの中には辞めてしまう人達も出てくるでしょう、フルノードの数が減るとそれだけネットワークの分散性や堅牢性が弱くなっていくので、ひいてはビットコインの永続性や価値などへの影響が避けられなくなります。

賛成派の意見

一方で、ビットコインNFT(Inscriptions)に賛成している人の意見としては「Ordinalsの影響で、取引手数料が高騰するのであればそれはマイナーやネットワークにとって好ましい」というものがあります。

ビットコインは、将来的に2,100万枚を発行した後は取引手数料だけがマイナーのインセンティブとなります。一方で、送金需要だけでは十分な取引手数料を確保できないのではないかという懸念もあります。その問題にNFTといったユースケースが追加される事で多くの取引が発生することが予想されるのでその問題解決に貢献できるはずという意見です。

また、多くの取引が発生することで取引手数料が高騰すれば大容量のInscriptionsを発行する際のコストも高騰するので攻撃リスクは減ります。

また、賛成派の意見としては「フルノードを建てる人が増える事で、ネットワークの堅牢性貢献に繋がる」というものもあります。

Inscriptionsを自前で発行するには、フルノードを建てる必要があります。将来的にInscriptionsを発行する企業やNFT運営が増えることで、結果としてフルノードの数は増えるのではないかという見立てもあるのです。

実際にビットコインNFTを発行してみた

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引用:OpenSea

今回の記事執筆に際し、筆者自身も実際にInscriptionsを発行してみました。

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引用:Ordinals.com

発行に至るまでに、多くの苦労を伴いましたが、その度にコミュニティに助けられました。また、簡単に送受信するために、BTC NFTを発行した後にETHでラップしてみました。今後、ビットコインNFT(Inscriptions)がどうなるかは、まだまだ不明瞭です。しかし、ビットコインというなかなか大きな技術革新が起きにくい領域での出来事なので、注意深く動向を追っていきたいと思います。

※本記事はビットコインNFTへの投資を推奨するものではありません。予想に反して損失を被る可能性もあるため、投資はご自身の判断と責任において行ってください。