暗号資産(仮想通貨)を運用していると、ビットコインでは利益が出ている一方で、別の通貨では損失が出ることも少なくありません。「これらを相殺して税金を減らせるのか?」という疑問の答えが、損益通算です。
暗号資産はすべての損失を相殺できるわけではなく、適用できるケース・できないケースが明確に決まっています。本記事では、損益通算の基本、暗号資産で利用できる条件、他の所得との関係、計算ステップまでを2025年時点の情報でわかりやすく整理します。
※税金等の詳細は管轄の税務署または税理士にご確認いただくか、国税庁タックスアンサーをご参照ください。
※本記事の内容は、2025年12月時点の法令・通達等をもとに作成しています。
目次
損益通算とは?暗号資産で使えるケースと使えないケース

損益通算とは、1年間のうちに発生した「利益(プラス)」と「損失(マイナス)」を互いに差し引きして、課税対象となる所得金額を小さくする仕組みです。株式や不動産などの投資ではよく使われる考え方で、同じ区分の所得であれば、ある取引の利益を別の取引の損失で相殺することができます。
暗号資産(仮想通貨)についても、一定の条件を満たす場合には損益通算が可能です。ただし、すべての損失が自動的に他の所得と相殺できるわけではなく、「どの所得区分か」「同じ年に発生した損益か」といった要件を満たしている必要があります。
暗号資産全体の確定申告の流れや必要書類については、「仮想通貨も確定申告が必要!基礎知識・やり方・計算方法・注意点を解説」で詳しく解説しています。
暗号資産で損益通算できる3つの条件
暗号資産で得た所得は、次の3つの条件をすべて満たした場合に限り、損益通算が認められます。
- 「雑所得」に該当するものであること
- 「総合課税」の対象であること
- 同一年内(1月1日〜12月31日)に発生した損益であること
雑所得は多くの場合、総合課税(給与所得などと合算して税額を計算する方式)の対象となりますが、損益通算ができるのは「同じ雑所得」「総合課税の対象」「同一年内に発生した損益」に限られます。たとえば、暗号資産の損失は、同じ年に発生した副業収入(雑所得)や、他の暗号資産の利益と相殺できますが、株式やFXなど申告分離課税の所得とは相殺できません。
暗号資産で得た利益の分類と「雑所得」の注意点

暗号資産の取引で得た利益は、多くの個人の場合、所得税法上「雑所得」に分類されます。雑所得とは、不動産所得や事業所得、給与所得など、他の9種類の所得(不動産所得・事業所得・給与所得・利子所得・譲渡所得・退職所得・配当所得・山林所得・一時所得)のいずれにも当てはまらない所得を指します。
暗号資産の売却益や、他の暗号資産・商品・サービスへの交換によって確定した利益などは、この雑所得に含まれます。損益通算の可否を判断するためには、「暗号資産の利益は原則として雑所得であり、総合課税の対象になる」という点を押さえておくことが重要です。
暗号資産で得た利益の申告方法や、確定申告が必要になるケースについて詳しく知りたい方は、暗号資産の確定申告を解説した記事もあわせてご覧ください。
雑所得の3つの特徴(損益通算で押さえておきたいポイント)

雑所得には、損益通算を考えるうえで知っておきたい特徴がいくつかあります。ここでは代表的な3つを確認しておきましょう。
1. 特別控除がない
一時所得などには50万円の特別控除があり、その範囲内の利益には税金がかかりません。一方、雑所得にはこのような特別控除がないため、収入から必要経費を差し引いた利益が1円でも発生すれば、その全額が課税対象になります。
2. 赤字の繰越ができない
株式など一部の所得では、損失を翌年以降に繰り越して、将来の利益と相殺できる制度があります。しかし、雑所得には損失の繰越制度がありません。暗号資産でその年に出た損失は、同じ年の雑所得としか相殺できず、翌年以降に持ち越すことはできません。
3. 総合課税以外の所得とは損益通算できない
雑所得の損益通算は、同じく総合課税の雑所得とのみ可能です。暗号資産の損失は、副業による原稿料やアフィリエイト収入など、同じ雑所得で総合課税の対象となるものとは相殺できますが、申告分離課税である株式やFXの所得とは通算できない点に注意が必要です。
暗号資産で損益通算できる具体的なパターン

暗号資産同士の損益通算(BTCの利益とETHの損失など)
暗号資産で得た所得は、同じ雑所得のなかであれば通貨ごとに損益通算が可能です。たとえば、ビットコイン(BTC)の売買で100万円の利益が出ており、イーサリアム(ETH)の取引で200万円の損失が出ている場合、これらを合算して「−100万円」とすることができます。
同様に、XRP(エックスアールピー)など複数の暗号資産を取引している場合も、1年間(1月1日〜12月31日)の取引ごとに所得額を計算し、通貨を問わず暗号資産の利益と損失を合算して最終的な雑所得の金額を求めます。
ほかの雑所得との損益通算(副業収入など)
暗号資産の損失は、同じ雑所得の範囲であれば、暗号資産以外の収入とも損益通算ができます。たとえば、副業のアフィリエイト収入や原稿料、講演料などが雑所得に該当する場合、これらと暗号資産の損失を差し引きして、課税対象となる雑所得の合計額を減らすことが可能です。
ただし、どの所得区分に入るかは、収入の内容や規模によって変わることがあります。具体的な区分について不安がある場合は、税理士や所轄の税務署に相談するようにしましょう。
損益通算できないケース(株やFXなど申告分離課税)
一方で、暗号資産の損失は、申告分離課税の対象となる所得とは損益通算することができません。代表的な例として、次のような所得が挙げられます。
- 上場株式や投資信託の譲渡益
- FX取引で得た所得
- 先物やオプション取引で得た所得 など
これらは税率や申告方法が分離されているため、暗号資産の損失で株の利益を相殺するといったことはできません。「暗号資産の損失は、あくまで雑所得内でのみ相殺できる」という点を押さえておきましょう。
暗号資産の損益通算の計算ステップ

実際に損益通算を行うときは、次のような手順で計算を進めると整理しやすくなります。
① 1年間の取引ごとの所得額を計算する
まず、1月1日から12月31日までの1年間に行った暗号資産の取引について、それぞれの取引ごとに所得額(利益または損失)を計算します。
所得額の基本的な計算式
所得額 = 取引時の時価 × 数量 - 取得単価 × 数量 - 必要経費
暗号資産を「日本円に売却した場合」「他の暗号資産に交換した場合」「暗号資産で商品やサービスを購入した場合」など、経済的利益が確定したタイミングごとに所得額を求めます。
② 通貨別に損益を集計し、暗号資産全体で合算する
次に、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、XRPなど通貨ごとに年間の損益を集計し、その後、暗号資産全体で利益と損失を合算します。ここで算出した合計額が、暗号資産に関する雑所得のベースとなる金額です。
③ 雑所得内で損益通算し、確定申告書に反映する
暗号資産以外にも雑所得(副業収入など)がある場合は、それらの所得と暗号資産の損益を合算し、雑所得の合計額を求めます。損失が利益を上回る場合は、その年の雑所得は0円として申告します(雑所得の赤字は翌年に繰り越すことはできません)。
最終的に、雑所得の合計額をほかの総合課税の所得(給与所得や事業所得など)とあわせて確定申告書に記載し、所得税と住民税の計算に反映します。暗号資産全体の税金計算の流れや、具体的な申告手順について確認したい場合は、暗号資産の確定申告を解説した記事もあわせてご覧ください。
暗号資産取引で必要経費と認められるもの

暗号資産の所得は、「収入(売却額や使用時の時価)」から「取得費」や「必要経費」を差し引いて計算します。適切に経費を計上することで、課税対象となる所得額を抑えることができます。
経費になる可能性が高い費用の例
一般的に、次のような費用は暗号資産取引の必要経費として認められる可能性が高いと考えられます。
- 暗号資産を購入するために支払った取引手数料・振込手数料
- 取引や価格監視に使用するパソコン・スマートフォン・周辺機器の購入費用
- マイニングに使用する専用機器やパーツの購入費用
- インターネット回線の利用料
- 暗号資産に関する書籍・セミナー参加費などの情報収集コスト
- 暗号資産の損益計算ツールや税務ソフトの利用料
按分が必要な費用の考え方
パソコンやスマートフォン、家賃・電気代など、暗号資産取引以外の目的でも使用している費用は、暗号資産取引に使用した割合に応じて按分するのが一般的です。たとえば、仕事・プライベート・暗号資産取引の3つの用途で同じパソコンを使っている場合、それぞれの利用時間や用途に応じて経費算入する割合を決めることになります。
按分の根拠を示すためにも、領収書やレシートなどの証拠書類を保管し、「いつ・どこで・何のために」使った費用なのかを説明できるようにしておくことが重要です。
経費にならないケースの例
一方で、暗号資産取引に直接必要とは言えない費用は、原則として必要経費にはなりません。たとえば、次のような費用は経費として認められない可能性が高いと考えられます。
- 取引とは関係のない水道代やガス代
- 私的な飲食代や交際費(暗号資産取引との関連が説明できないもの)
- 純粋な資産形成目的の貯蓄・投資商品への積立金 など
※税金等の詳細につきましては管轄の税務署や税理士等にお訊ねいただくか、または国税庁タックスアンサーをご参照ください。
必要経費の扱い方や申告書への反映方法については、暗号資産の確定申告を解説した記事で具体例とあわせて紹介しています。
暗号資産の損益通算と確定申告の関係

暗号資産で損益通算を行った結果は、ほかの雑所得や給与所得などとあわせて確定申告で申告します。確定申告では、1年間(1月1日〜12月31日)の収入・経費・損益通算の結果を整理し、「所得税」と「住民税」を計算します。
確定申告が必要になる主なケース
暗号資産取引に関連して確定申告が必要になるかどうかは、勤務形態やほかの所得の状況によって変わりますが、代表的には次のようなケースが挙げられます。
- 会社員で、暗号資産を含む雑所得の合計が年間20万円を超える場合
- 給与所得がなく、暗号資産を含む所得の合計が基礎控除額(48万円)を超える場合
- 個人事業主やフリーランスで、毎年の確定申告が必要な場合
詳しい判定条件や、住宅ローン控除・医療費控除など他の要因で申告が必要になるケースについては、暗号資産の確定申告全体を解説した別記事をご確認ください。
損益通算の結果を申告書に反映する流れ
暗号資産の損益通算を行ったあとは、次のような手順で申告書に反映します。
- 暗号資産ごとの損益と、他の雑所得の金額を整理する
- 雑所得内で損益通算を行い、最終的な雑所得の合計額を求める
- 雑所得の合計額を、給与所得など他の総合課税の所得と合算する
- 確定申告書に金額を転記し、e-Taxや書面で提出する
暗号資産の年間取引件数が多い場合、手作業での集計は負担が大きくなりがちです。取引履歴のダウンロード機能や損益計算ツールなどを活用し、早めに準備しておくことが重要です。
近年は、暗号資産に関する情報共有制度(CARF:暗号資産報告枠組み)など、国際的な情報交換の枠組みが進んでおり、税務当局が取引情報を把握しやすくなる環境が整いつつあります。制度は損益通算のルール自体を変更するものではありませんが、申告漏れや計算誤りが発見されやすくなっている点には注意が必要です。
詳しい申告手順は確定申告記事へ
確定申告の具体的な手順やe-Taxの使い方、書類の書き方などは、暗号資産の確定申告全体を解説した「仮想通貨も確定申告が必要!基礎知識・やり方・計算方法・注意点を解説」の記事もあわせてご確認ください。暗号資産の申告方法全体を体系的に確認したい場合は、同記事をご覧ください。
暗号資産の損益通算を賢く活用しよう

暗号資産の損益通算は、同じ雑所得の範囲であれば、損失を活かして課税対象となる所得額を抑えるのに役立ちます。一方で、株式やFXなど申告分離課税の所得とは通算できず、損失の繰越もできないなど、他の投資と異なるルールも多くあります。
日頃から取引履歴や損益の状況を把握し、「どこまでが損益通算できるか」「どの費用が必要経費になり得るか」を理解しておくことが、税金と上手に付き合う第一歩です。税制や取扱いは今後変更される可能性もあるため、最新の情報や国税庁の案内、税理士など専門家の意見も参考にしながら、無理のない範囲で賢く取引と申告を進めていきましょう。