2022年9月、コインチェックが『The Sandbox』上に開発・展開しているメタバース都市「※OASIS TOKYO」のクリエイティブディレクターに、小橋賢児さんが就任しました。
小橋さんは、国内外の数多くの大規模イベントのみならず、都市開発や街づくりの実績も有するクリエイティブディレクターであり、2021年には、東京2020パラリンピック競技大会閉会式のショーディレクターを務めました。また、2025年に開催される大阪・関西万博の催事企画プロデューサーにも就任されています。
今回は、9月8日に行われた小橋さんとコインチェック 常務執行役員(NFT・メタバース・IEO・Web3等新規事業担当)天羽健介の対談の模様をお届けします。
対談では、OASIS TOKYOで実現したい理念やストーリー、プロジェクトにかける意気込みなどについてそれぞれの想いを語っていただきました。
(※)コインチェック株式会社は、「OASIS」の運営をはじめとするメタバース事業を、マネックスクリプトバンク株式会社に事業譲渡することを決定し、MCBは本年10月2日付けで同事業を承継することといたしました。 詳しくはこちら
目次
世界中を旅した経験をOASIS TOKYOで活かしたい
- ── 最初に、「OASIS TOKYO」プロジェクトの概要について教えてください。
天羽健介(以下、天羽):OASIS TOKYOは、世界で最も有力なメタバースの一つ『The Sandbox』上で展開する2035年の近未来都市TOKYOを舞台にしたメタバースのプロジェクトです。
次世代SNSと言われているメタバースでは、今後今まで以上に滞在時間が長くなり、日々の生活において現実世界と融合が進んでいくと言われています。
これまでのSNSと異なる点として、1強ではなく複数の主要なメタバースが残り、それらが価値そのものを移転できる特徴を持ったブロックチェーンで銀河系のように相互につながっていく。そのメタバース空間で表現されるモノやサービスが同じくブロックチェーンという技術が使われているNFTであり、それらと交換するお金の役割を果たすのが暗号資産やデジタル通貨になるのではないかと考えています。
さらに来るべきWeb3.0の世界では、あらゆる企業やプロジェクトがNFTや暗号資産を発行しホルダーを巻き込んでコミュニティを運営し、ビジネスやプロジェクトを共創する世界観になる。そのNFTと親和性が高い領域とされるアートや音楽、ファッション、スポーツなどの施設をOASIS TOKYO内に建設しています。
(※)OASIS TOKYOは現在制作中です。一般公開は2022年中を予定しています。
(※)コインチェック株式会社は、「OASIS」の運営をはじめとするメタバース事業を、マネックスクリプトバンク株式会社に事業譲渡することを決定し、MCBは本年10月2日付けで同事業を承継することといたしました。 詳しくはこちら
- ── そのOASIS TOKYOのクリエイティブディレクターに、小橋賢児さんが就任されました。コインチェックからオファーの連絡がきた時、どのような心境でしたか?
小橋賢児氏(以下、小橋):天羽さんとは、今年の春に初めてお会いしました。そこから何度か会って話をしていくうちに、天羽さんがOASIS TOKYOにかけている想いと今の自分の思想に共通している点が多くあることがわかってきて、「それなら何か力になれるんじゃないか」ということでご一緒させていただくことになりました。
僕は27歳の時に俳優活動を休止して、しばらく世界中を旅する生活を送っていたのですが、今回のお話をいただいた際に、メタバースと旅って「非日常を体験する」という意味ではとても似ているなと思ったんです。
自分には旅を通じて多くの街の伝統やコミュニティに触れてきた経験があって、それは自身の強みだと感じています。リアルかバーチャルかという点では異なるかもしれませんが、”街づくり”という面で見れば実在する街とメタバースには共通点もたくさんあると思います。なので、これまで旅で培ってきた知識や経験をOASIS TOKYOでは活かしていきたいですね。
小橋さんをクリエイティブディレクターに起用した理由
- ── コインチェックとして、小橋さんにクリエイティブディレクターをお願いしようと思った理由を教えてください。
天羽:2022年の6月にNYで行われた世界最大のNFTイベント「NFT.NYC」に行ったときに改めて確信したのですが、盛り上がっているコミュニティには柱となる世界観やストーリーがあります。
OASIS TOKYOコミュニティの根幹となる部分を創っていく話を小橋さんにした時に、自分の中に漠然とあった考えとシンクロし、小橋さんの経験を注入するとより本質的で豊かなメタバースコミュニティをユーザーの皆さんを巻き込んで創ることができると思った…。というのが、小橋さんにクリエイティブディレクターをお願いしようと考えた理由です。
2022年1月から目まぐるしいスピードでこのプロジェクトを進めていく中で、私は今の世の中にとってどういうメタバースやコミュニティが良いのだろうと走りながらずっと考えてきました。
ポーランドの社会学者ジグムント・バウマンは、頭で何かを考えるのではなく自然に生ずる共通の理解がある温かい集まりがコミュニティだといいます。
OASIS TOKYOでは、元AKB48の小嶋陽菜さんやミュージシャンのMIYAVIさん、モデル・女優の水原希子さん、オリンピックメダリストの太田雄貴さん、ファッション業界ではANREALAGEさんやTOMO KOIZUMIさんなど、それぞれのカテゴリーの第一線で活躍している方々とコラボ企画を予定しています。そうした方々との共創やバズワードでもあるメタバース、その中のお洒落なサイバー空間があれば、マスアダプションという意味で初めに体験するためのとても重要なきっかけになると思います。しかし、また訪れたいと思ってもらうにはもう一段何かが必要。それには、他の場所では体験できないようなことや、OASIS TOKYOだけの世界観やストーリーを提供することが不可欠になります。
人はいつもストーリーに共感して感情で動きます。共感する人が増えるとそれがコミュニティになる。小橋さんは既に世界各地の様々なコミュニティを実際にユーザーとして肌で体感されているので、そのエッセンスを還元してもらうことでより良いコミュニティが創れるんじゃないかと思ったんです。
小橋さんとはこの数か月、本当に様々な話をしました。バーニングマン、クリスチャニアなど小橋さんが実際に訪れた世界各地の体験の話や、ULTRA JAPANやパラリンピック閉会式セレモニーなど実際に関わったイベントの話。映画『レディプレーヤー1』のようにテクノロジーが進化した未来はどうなっているんだということに想像を巡らせたかと思いきや、ホモサピエンスや宗教、哲学などの過去の歴史の話やヨガや瞑想などスピリチュアルな話まで。
人間が本質的に豊かになるにはどうすればいいのか、そのためにはどんなコミュニティだと理想的なのか。どうせ創るなら、訪れてくれた人に良い影響を提供することができる意味あるコミュニティを創りたいと思っています。
プロデューサーとして大切にしている想い
- ── 小橋さんは「東京2020パラリンピック」の閉会式や、2025年に開催される「大阪・関西万博」など様々なイベントのディレクション、プロデュースをされています。イベントをプロデュースをする上で、大切にしていることはありますか?
小橋:イベントをプロデュースする際には、「これからの新しい生き方や豊かさとは何なのか」や、「自然発生的に人が集まる仕組みとはどういうものなのか」といったテーマを掲げることが多いですね。そのような基本となるテーマを設定しつつ、個別のイベントごとに新しい価値観を創出していくのが自分の役割だと考えています。
例えば、去年パラリンピック閉会式のショーディレクターを務めた際には、「二元論ではない世界」というのを個人的なテーマとして掲げていました。これは、僕が最近大切にしている価値観の一つでもあります。
「二元論ではない世界」とは、今いる世界を否定して新しくユートピアを創り上げるのではなく、今ある世界の見方を変え良い部分を取り込みながら新しい世界観を築いていくという調和的な意味合いがあります。「都市と自然の共生」という言葉を耳にすることがありますが、ニュアンス的にはそのような感じですね。
都市と自然という一見すると両極端にあるように見えるものも、それぞれの良いところを上手く調和させることで、単体ではなし得なかった新しい世界観を創出できるようになる。どちらか一方を否定するのではなく、共生することが大切なんだという価値観です。
OASIS TOKYOはメタバースのプロジェクトですが、メタバースやAI、NFTといった新しい技術も、自然の一部である人間とテクノロジーを調和させてより良い世界を創っていくためのツールだと思います。そういった意味では、僕が最近取り組んできたテーマと通ずるものがあるのではないかと考えています。
メタバース、NFTが注目を集めている理由
- ── 近年、メタバースやNFT関連のサービスやプロダクトが急増していますが、そういった現象の背景にあるものは何だと思いますか?
天羽:社会的な背景としては、国家や法定通貨といったものに対する信用が徐々に揺らいできていることはあると思います。
ユヴァル・ノア・ハラリという歴史学者が書いた『サピエンス全史』という本があるのですが、最近、小橋さんとこの本に書かれていることがOASIS TOKYOのストーリーを構築する際に役に立つという話になったんです。
本の内容を要約すると、大昔、地球にはネアンデルタール人や北京原人などさまざまな種類の人類が存在していた。そんな中、ホモ・サピエンスだけが生き残れた理由は、ホモ・サピエンスだけが国家や貨幣や宗教といったフィクションを創ることができたからだ、というものなのですが…。
小橋:ホモ・サピエンスだけ、虚構を信じる力があった。
天羽:そうです。つまり、お金はそれを使う人たちが信用しているから価値があるのであって、信用がなければただの紙切れに過ぎない。国家にしても、国境というものを人々が暗黙のうちに認めているから成立しているのであって、それも人が創ったフィクションに過ぎないわけです。
ホモ・サピエンス、つまり私たち人間はそのようなフィクションを創ることができ、さらにそれを信じて価値観を共有することで集団生活が可能となり、そこから農業や科学が生まれて繁栄することができた。
しかし、近年になって法定通貨や国家といったものに対する信用が揺らぎ始めていて、そこに分散化やボーダレスといった思想をもったビットコインやメタバース、Web3.0などが登場した。そうしたカウンターカルチャーのストーリーに共感する人々が増えてきているというのが、メタバースやNFTが注目を集めている理由ではないでしょうか。
フィクションという点からいえば、資本主義も人間が創った虚構の一部だと思います。資本主義のおかげで物質的には豊かになったけれど、競争社会という殺伐とした空気の中で精神的には豊かだとは言えないような面もたくさんある。
私自身そういった問題意識を持っているので、OASIS TOKYOではお金という概念を一度外して原点に立ち返り、「本当の豊かさとは何なのか?」という本質的な価値観を追求していきたいと思っています。
引用:ユヴァル・ノア・ハラリ 著『サピエンス全史 上』(河出書房新社)
OASIS TOKYOが目指す理念・ストーリー
- ── OASIS TOKYOでやってみたいことや実現したい理念などがあったら教えてください。
小橋:参加してくれる人たちが自由に自分を表現できる、「実験解放区」みたいな場所にしていくのが理想です。現実世界のコミュニティや法律を急に変えることはできないけれど、「OASIS TOKYOの中だったら、人が心から本質的だと思えるルールの中で自分を解放できる」みたいな世界観を築いていきたいですね。
現実世界でそれを実現しているのが、アメリカのブラックロックという砂漠で開催されている「バーニングマン」です。バーニングマンでは、「Give&Give」と「No Spectators(傍観者になるな)」という2つのコンセプトによって、映画『ペイ・フォワード』のような利他の精神に満ちた世界が広がっている。
そこでは人種も年齢も関係なく、すべての人が対等な関係を築きながら共存しています。それこそイーロン・マスクやGoogle共同創業者のラリー・ペイジみたいな実業家もいれば、ヨガや瞑想をしている人、旅人、主婦、料理人なんかもいる。参加者全員が身分や年収に関係なく、独自のルールの中で助け合いながら好きなように自分を表現しているんです。
バーニングマンの中では、みんなが自分の殻を破って「ありのままの自分」になることができる。そして様々な人と触れ合ったり、新しいことにチャレンジしたりすることで心がポジティブに変わっていく。
以前、僕もバーニングマンに1週間参加したことがあるのですが、その時に経験したことや感じたことは今も自分の中の思想の一部になっています。
OASIS TOKYOでも同じように、その空間にいるときだけは日常生活では話せなかったことを話せたり、新しいことにチャレンジできるような場所にしていきたいですね。リアルかバーチャルかと線引きするのではなく、メタバースで体験したことで新たな自分の一面に気付いたり、心が豊かになって日常生活を生きる活力になったりする…。そんな、現実世界にポジティブな影響を与えられる空間を創っていきたいですね。
(※)2022年に開催されたバーニングマン
天羽:ほとんどの人は24時間365日ずっとメタバースで過ごすわけではなく、現実世界と行き来することになると思います。しかし現実世界は時に非情で残酷な一面も。競い合って一歩でも差を付けようとする時代、苦しくて助けを求めても他人に頼るなという言葉が返ってくる時代。
OASIS TOKYOは、そんな時に「ありのままで良い」と思えたり、その上で心から「もっとこうなりたい」と思える自分に出会える場所にしていきたいですね。世界的なSBNR(Spiritual But Not Religious=無宗教型スピリチュアル層)のトレンドも踏まえると、今は多くの人がそんな失われた楽園を探しているようにさえ思えてきます。
メタバース都市OASIS TOKYOの世界観に共感してくれた人たちでコミュニティが生まれ、そこから派生して様々なストーリーが生まれていく。そのプロセスで様々な体験をし、発見や気付き、学びがあってそれらは現実世界の過ごし方に豊かな影響を与え、そしてまた現実世界で得た何かをメタバースに持ち込んで様々な影響を与え広がっていく…。そんな好循環を生み出すきっかけになるようなコミュニティを創りたい。
そしてそれは中央集権的に創るのではなく、コミュニティメンバーと一緒に共創していきます。そこにまだ見ぬどんなセレンディピティがあるのか、今から楽しみで仕方ありません。
小橋賢児氏について
小橋 賢児(こはし けんじ)/クリエイティブディレクター
1979年、東京都生まれ。88年に俳優としてデビュー、数多くの人気ドラマに出演。2007年に芸能活動を休止し世界中を旅する。帰国後『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクターや『STAR ISLAND』の総合プロデューサーを歴任し国内外で成功させる。500機のドローンを使用した夜空のスペクタルショー『CONTACT』はJACE イベントアワードにて最優秀賞の経済産業大臣賞を受賞。2021年、東京2020パラリンピック競技大会閉会式のショーディレクターを務め、また、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の催事企画プロデューサーに就任する。その他、地方創生、都市開発に携わるなど常に時代に新しい価値を提供し続けている。
執筆柳田孝介
出版社でテレビ情報誌や映画雑誌の編集を経験した後、2019年からフリーライターとして活動。暗号資産の取引は2017年から開始。推し通貨はイーサリアム(ETH)。最近はNFTマーケットでデジタルアートの取引を始め、日々、審美眼磨きにいそしんでいる。