
年度末が近づくと話題になるのが「確定申告」です。
納税は国民の三大義務のひとつであり、確定申告はその義務を果たすための大切な制度です。
会社員など給与所得のみの方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、仮想通貨で利益を得た場合、多くのケースで確定申告が必要となります。
この記事では、どのような仮想通貨取引が確定申告の対象になるのか、利益の計算方法や申告の流れなど、知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説します。
※確定申告等の詳細については、管轄の税務署や税理士、または国税庁タックスアンサーをご確認ください。
目次
仮想通貨では確定申告が必要?
仮想通貨の売却や交換などで利益が出た場合、条件によっては確定申告が必要です。
たとえば、会社員や公務員など給与所得がある人は、年間の仮想通貨による所得が20万円を超えると申告義務が生じます。一方、給与所得がない学生や主婦(夫)など扶養に入っている人は、基礎控除額の48万円を超える利益が出た場合に申告が必要です。
また、個人事業主やフリーランスは、仮想通貨の所得額に関わらず毎年の確定申告が必須です。
仮想通貨で得た利益も課税対象?
仮想通貨の利益は、所得税法上「雑所得」に分類されます。課税対象になるのは、仮想通貨を売却したり、他の通貨や商品・サービスに交換したりして利益が確定した場合です。保有しているだけでは課税されませんが、取引を行い経済的利益が発生した時点で課税対象となる点を覚えておきましょう。
仮想通貨で得た利益を確定申告しないとどうなる?
確定申告が必要な取引を申告しなかった場合、後日税務署から指摘を受け、延滞税や加算税が課される可能性があります。悪質と判断されると重加算税が加わることもあり、税負担が大きくなるケースもあります。
仮想通貨の取引履歴は取引所やブロックチェーン上に記録が残るため、「申告しなければ分からない」という考えは危険です。早めの計算と申告で、余計なリスクを避けましょう。
仮想通貨で得た利益の分類
仮想通貨の取引で得た利益は、所得税法上「雑所得」に分類されます。雑所得とは、不動産所得や給与所得など、ほかの9種類の所得(不動産所得・事業所得・給与所得・利子所得・譲渡所得・退職所得・配当所得・山林所得・一時所得)に当てはまらない所得を指します。
この雑所得は「総合課税」の対象となります。総合課税とは、給与や不動産収入など、ほかの総合課税に該当する所得と合算し、その合計額に応じて超過累進税率が適用される仕組みです。そのため、所得が多ければ多いほど適用税率が高くなり、結果として税負担も大きくなります。
なお、仮想通貨の取引を事業として継続的かつ大規模に行っている場合には、事業所得として扱える可能性もあります。しかし、多くの個人投資家の場合は、あくまで投資や資産運用の一環として取引しているため、事業所得ではなく雑所得として申告するのが原則です。
雑所得の特徴とは?
雑所得には、不動産所得や事業所得などほかの所得区分には認められている一部の制度が適用されないという特徴があります。ここでは代表的な3つのポイントを押さえておきましょう。
1. 特別控除がない
一時所得や給与所得などには、一定額まで非課税となる特別控除が設けられています。一時所得であれば最大50万円までの控除があり、この範囲内の利益は課税されません。しかし雑所得にはこうした控除がないため、利益が1円でも発生すればその全額が課税対象になります。
例えば、10万円の利益が出た場合、一時所得であれば50万円の特別控除内に収まり課税ゼロですが、雑所得の場合は10万円全額に対して課税されます。
2. 赤字の繰越ができない
株式やFX取引では、損失が出ても翌年以降3年間は利益と相殺できる「損失繰越控除」が認められています。しかし雑所得にはこの制度がありません。たとえば仮想通貨で100万円の損失を出しても、その年限りで消滅し、翌年以降の利益と相殺することはできません。そのため、利益と損失が交互に発生するような取引では、結果的に税負担が重くなる可能性があります。
3. 総合課税以外の所得と損益通算ができない
雑所得の損益通算は、同じ雑所得で総合課税の対象となるものに限られます。たとえば、仮想通貨の損失は、副業による原稿料やアフィリエイト収入といった他の雑所得とは通算できますが、株式の譲渡益や不動産売却益などとは相殺できません。つまり、損失を活かせる範囲が限られており、税金対策の自由度も低くなります。
仮想通貨の取引で税金がかかるタイミングは?
仮想通貨は、単に保有しているだけでは課税されません。しかし、売却や交換などで経済的利益が確定すると、その時点で所得が発生し課税対象となります。たとえば、「日本円に換金する」「他の通貨に交換する」「商品やNFTを購入する」といったケースです。また、ステーキングやマイニングの報酬は、受け取った時点の時価が所得となり、ハードフォークで付与された通貨は、受取時は非課税、売却・使用時に課税されます。
仮想通貨の所得に対する所得税の税率
仮想通貨取引で得た利益は、他の総合課税の所得(給与所得や不動産所得など)と合算した金額に応じて、所得税が課されます。所得税は累進課税制度を採用しており、所得が多くなるほど税率も高くなる仕組みです。税率は次の7段階です(2025年8月時点)。
【総合課税の所得税率一覧税率一覧 2025.8現在】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
仮想通貨の所得に対する損益通算
損益通算とは、ある取引で得た利益と別の取引で生じた損失を相殺することで、課税対象となる所得額を減らす仕組みです。仮想通貨で損益通算が認められるのは、以下のすべての条件を満たす場合に限られます。
・「雑所得」に該当すること
・「総合課税」の対象であること
・同一年内に発生した損益であること
雑所得は多くの場合、総合課税(各種の所得金額を合計して所得税額を計算する)の対象となりますが、損益通算できるのは同じ雑所得の総合課税の対象となるもの、かつ同一年内に発生した損益に限られます。
仮想通貨の確定申告における経費とは
仮想通貨の取引で得た所得を申告する際、取引に関連して支出した費用のうち、一定のものは「必要経費」として所得から差し引くことができます。必要経費として認められるものと認められないものの違いを正しく理解しておくことが、適切な確定申告には欠かせません。
認められるかどうかの判断基準は、「仮想通貨の所得を得るために直接必要な支出であるかどうか」です。支出内容が曖昧な場合は、領収書・レシートを保管しておき、「いつ、どこで、誰と、何のために」使ったのかを説明できるようにしておきましょう。
仮想通貨における確定申告の計算方法
仮想通貨の所得は、基本的に「雑所得」として扱われます。売却や他の通貨への交換、商品購入などで利益が出た場合、次の計算式で所得額を求めます。
所得額 = 売却価格 - 取得費 - 必要経費
取得費:購入時の価格+手数料
必要経費:取引に直接関係する手数料やツール利用料など
なお、複数回の取引がある場合は、移動平均法または総平均法を使って取得単価を計算する必要があります。
計算方法 | 特徴 | 向いている人 |
---|---|---|
移動平均法 | 仮想通貨を購入するたびに平均取得単価を更新。価格変動を反映しやすい | 取引回数が多く、正確な損益を把握したい人 |
総平均法 | 年間の取得額と数量から平均単価を一度だけ算出。計算が簡単 | 取引が少なく、手間をかけたくない人 |
どちらの方法を選んでも、原則として毎年継続して使用する必要があり、年度ごとの切り替えはできません。
確定申告後の納税方法
仮想通貨で利益が出たら、毎年2月16日〜3月15日の間に確定申告と納税が必要です。前年1年間(1月1日〜12月31日)の所得を計算し、税額を確定します。税務署に行く必要はなく、オンラインで完結できるe-Taxの活用がおすすめです。
区分 | 必要書類の例 |
---|---|
会社員 | 確定申告書、源泉徴収票、マイナンバーカード、仮想通貨の取引明細 |
自営業等 | 確定申告書、青色申告決算書または収支内訳書、帳簿・領収書、マイナンバーカード、仮想通貨の取引明細 |
※取引明細は提出不要な場合もありますが、照会に備え印刷保管が安心です。
ネットでできる確定申告「e-Tax」
e-Taxは、国税庁が提供するオンライン申告システムで、自宅や外出先から確定申告を行える便利な方法です。現在は次の3つの方法が使えます。
方式 | 特徴 |
---|---|
ID・パスワード方式 | 税務署で発行されたIDとパスで申告(マイナンバーカード不要) |
マイナンバーカード方式 | ICカードリーダーやスマホでカード読み取り。セキュリティ高・継続利用向き |
スマホ電子証明書方式 | 対応スマホで指紋や顔認証でログイン。カード不要で便利 |
どの方法でも、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で申告書を作成し、そのままオンラインで提出できます。マイナンバーカード方式やスマホ電子証明書方式を使えば、税務署に行かずに完結するので、混雑する時期でも安心です。
税金の納付方法
仮想通貨取引による所得を申告したあとは、原則として3月15日までに所得税を納付します。納付書は自動で届かないため、必要な場合は税務署で発行してもらうか、自分で作成する必要があります。
納付方法には、口座振替、e-Tax、ネットバンキング、クレジットカード、スマホ決済、コンビニ、現金納付などがありますが、e-Taxやスマホ決済は、手続きが簡単で忙しい方にもおすすめです。
仮想通貨の確定申告を正しく理解しよう
仮想通貨で得た利益には税金がかかります。取引の種類や内容によって課税対象になるケースはさまざま。ルールを知らずに放置していると、思わぬ追徴課税につながることもあります。
申告では、利益の計算方法や経費の扱い、損益通算の可否など、押さえるべきポイントが多くありますが、e-Taxや専用ツールを活用すれば、負担を減らしながら正しく申告できます。
複雑に感じるかもしれませんが、大切なのは「知って、備える」こと。取引履歴の整理や最新情報のチェックを忘れずに、無理のない範囲でしっかり対応していきましょう。