デジタルデータに唯一無二の価値を与えたNFT(Non-Fungible Token)市場は、ここ数年間で過去に類を見ない程の爆発的な成長を私たちに見せてくれましたが、ここ最近の停滞気味な市場動向から「暗号資産と共に、冬の時代を迎えたのではないか」との懐疑的な声も多く聞こえてくるようになりました。
しかし、一部のNFT市場に向けられている否定的な声がある一方で、業界有識者の間では技術的にもビジネス的にも依然として可能性を秘めているNFTという未開拓マーケットに対して、今もなお期待の目が向けられ続けています。
そこで今回の記事では、NFT市場の中でも今最も注目を集めているNFTマーケットプレイスの動向や将来性を考察することで、今後のトレンドについて詳しく解説していきます。
※本記事は、2022年12月時点の情報を元に作成しています。
寄稿者Levine
I am a researcher and Investment associate at Coincheck Labs.
I founded a crypto venture and worked as a trader and researcher at Coincheck.
On my days off, I study poker.
Twitter: @levine_777
目次
そもそもNFTとは?
NFT(Non-Fungible Token)とは主にイーサリアム(ETH)のブロックチェーン上で構築される代替不可能なトークンのことです。
代替不可能なトークンとは、唯一無二の「一点物」の価値を生み出せるトークンという意味です。もう少しわかりやすく、具体的な話をしていきます。
例えば、Aさんが持っている1ビットコインとBさんが持っている1ビットコインは同等の価値であり、交換することができる「代替可能」なものです。一方で、「代替不可能」とは全く同じものが存在しない、例えるなら「金メダル選手の直筆サイン入りTシャツ」のような一点物であることを意味しています。
また、一点物で代わりがないトークンのことをNFTというのに対して、暗号資産のような代替可能なトークンのことをFT(Fungible Token)と呼びます。両者の違いは以下の通りです。
NFT | FT | |
---|---|---|
特徴 | 代替不可能 同じトークンが存在しない |
代替可能
同じトークンが存在する |
トークン規格 | ERC721 | ERC721 |
活用されている分野 | ゲーム、不動産、スポーツ、アート、会員権など | 暗号資産 |
上記の表のような違いがあり、デジタルデータに唯一性を与えることができるNFTは、会員権や不動産の所有の証明、著作権やアートなどさまざまな分野で実用化が進んでいます。
NFTについてより詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてみると良いでしょう。
NFTマーケットプレイスの基本情報
NFTマーケットプレイスとはユーザーが制作したNFTを販売(一次販売)したり、利用者同士がそれぞれ保有しているNFTを暗号資産にて売買(二次流通)したりすることができる売買プラットフォームのことです。
ユーザーはこのプラットフォームを通じて自由にNFTを取引することができ、NFTを制作して販売することや、購入したNFTを転売することで利益を生み出すことができます。
また現在(2023年2月時点)、NFTマーケットプレイスは日本国内だけでも75つ存在しますが、それらのプラットフォームはオーダーブック方式が採用されている「従来型」と自動マーケットメイカー方式が採用されている「AMM型」の2つの型に分類することができます。
以下では「従来型」と「AMM型」について詳しく解説していきます。
従来型(オーダーブック方式)
オーダーブック方式とは、中央集権取引所(例:Coincheck NFT)で採用されているシステムであり、売り手が売りたい値段を提示し、それに買い手が応じることで取引が成立します。
このオーダーブック方式は従来型というだけあり、既存のNFTマーケットプレイスのほとんどがこの方式を採用しています。
例えば、Coincheck NFTで取り扱いをしている『Otherside』の「Otherdeed」の一部は、2023年2月時点で1.68ETHで取引されています。この取引が成立するには「1.68ETHで売りたい」と思う売り手がいて、その提示価格に対して「1.68ETHなら購入したい」と思っている買い手がいることで取引が成立します。
この仕組みはシンプルで便利なものの、売り手からすると同じコレクションのアイテムを何個も保有していた場合、1つずつ価格を決めて出品しなければいけないという手間があります。また保有していたNFTの希少性が高まった場合にも、自分で確認してから価格を設定し直す必要があるといった点が懸念されています。
AMM型(自動マーケットメイカー方式)
そして、オーダーブック方式の懸念点を解消するかのように誕生したのが自動マーケットメイカー方式を採用したAMM型のNFTマーケットプレイスです。
AMM型の最大の特徴は、ユーザーは「流動性プール」と呼ばれるスマートコントラクトを相手に売買を実行するという点です。流動性プールとは、簡単に言えば資産(流動性)が貯められている場所です。ここでいう資産とはNFTそれ自体とその購入に使用される通貨を指しています。
参考:Sudoswap
例えば、sudoswapにある『Otherside』の「Otherdeed」の場合、AMM型の流動性プールにはNFTとそれらを購入することができるETHが集められています。
そして「Otherdeed」のトレードを行いたいユーザーは、この流動性プールとやりとりします。具体的には、「Otherdeed」が欲しいユーザーはプールに相応額のETHを投げ入れ「Otherdeed」を貰っていきます。反対に「Otherdeed」を売却してETHが欲しいユーザーはこのプールに「Otherdeed」を入れ、プールから相当額のETHを貰っていきます。
つまり買い手の観点から見ると、予めたくさんのNFTおよび通貨が集められているプールに行き、そのプールから欲しいものを貰い、代金として相応額をプールに戻す仕組みとなっています。オーダーブック式のマーケットプレイスでは、売り手が値段を提示することにより各NFTの価格が決定されていましたが、そもそも売り手と買い手が直接トレードを行わないAMM型のマーケットプレイスでは、プール内にある通貨とNFTの量によって予め設定された数式から取引価格が自動で算出され、取引が実行されます。
この取引価格を自動で決定できるのがAMM型の大きな特徴であり、これにより売り手はNFTの価格を1つ1つ再設定する必要もなく、全てのアイテムを底値で売ってしまうといった状況を簡単に防ぐことができるのです。
NFTの歴史の大まかな流れ
次に、NFTが注目を集めるようになった歴史背景について解説していきます。
EthereumHackerSonでCryptoKittiesが誕生した話
NFTの歴史を語る上で、2017年10月にカナダのウォータールーで開催されたEthereum HackerSonの存在を忘れてはいけません。そこで『NFT』という言葉が世界で広く認知されるようになったきっかけである「Crypto Kitties」が誕生したからです。
それまで世の中のデジタルデータには資産的な価値はありませんでした。なぜならオンライン上の画像やゲームのアイテムなどのデジタルデータは、その「所有権」を示すのが困難だったからです。著作権は存在するものの「自分がこの作品の唯一の所有者である」という証明は不可能で、コピーとの違いを明確にできませんでした。
そしてCryptoKittesないしはNFTがその時代に注目を集めた大きな理由は、このデジタルデータに「所有権の証明」という唯一無二の価値を与えたからです。
また、CryptoKittiesは「所有権の証明」だけでなく、デジタルデータにおける資産的な可能性を示してくれました。リリースしてから3ヶ月で約18万人ものユーザーを獲得し、当時設定された10匹のレアなKittyの市場価値が100,000ドルを超えるといった記録的な盛り上がりを見せたのです。
◉CryotoKittiesについて
CryptoKittiesは、Kitty(子猫)と呼ばれるイーサリアムのブロックチェーン上で構築されたトークンを交配させることで新しいKittyを生み出してコレクションするという、内容だけで見ると至ってシンプルなゲームです。
Kittyはそれぞれゲノムと呼ばれる特徴(口、目、尾、色など)を持ち、交配によって生まれたKittyは親Kittyのゲノムを受け継ぐ見た目をしています。なお、交配の中で稀に突然変異と呼ばれるレアゲノムを持ったKittyが生まれることがあり、そのような特徴を持ったKittyはマーケットプレイスで高値で取引される傾向があります。
CryptoKittiesでNFTの可能性を感じた人たちはBuild開始
CryptoKittiesのリリースから、NFT業界は急速に発展していくことになりました。
銀行、投資会社、芸術家など多様な分野からNFTプロジェクトをサポートする資金が流れ込み、急速に市場規模が拡大していきます。
また数多くのNFTプロジェクトが生まれる中、多くのユーザーがNFTの取引環境に不満を抱くようになっていきました。そして、NFTの売買をより簡単にするサービスであるNFTマーケットプレイスの必要性が唱えられ、今では世界最大のNFTマーケットプレイスとして知られるOpenSeaが創業されたのです。(その後、KnownOriginやSuperRare、Gatewayなども誕生)
このようにして、CryptoKittiesのリリース後、NFT業界は大きな成長を遂げていったのです。
取引量推移でわかるNFT市場の拡大と減少
それでは次に、ここ1、2年のNFT業界の動向をNFTマーケットでの取引数量と当時の主なニュースを振り返りながらみていきましょう。
2021年
2021年のNFT市場は、CryptoPunksやBeeple、そしてNBA TopShotなどのアートやスポーツ分野で大きな成長がみられた年と言えます。
特にNFTは、デジタルアセットとしての価値を大いに見出され、何千万円〜何億円という高額な単位で取引されたことでさらに話題を呼びました。日本でも2021年の流行語大賞に「NFT」がノミネートされるなど、2021年は「NFT元年」と呼ばれるほどマーケットが拡大していきました。
2021年1月:取引量は僅か2,000万ドル
◉2021年1月の主なニュース
2021年1月 | CryptoPunksが140ETHで取引される |
2021年1月 | DOGEを筆頭に犬コインが暴騰 |
2021年2月:取引数量は先月10倍の2億ドルに
◉2021年2月〜7月までの主なニュース
2021年2月 | HashMasksリリース開始 |
2021年2月 | NBA Top Shotが大流行(30分で2.6億円の売上) |
2021年3月 | BeepleのNFTがクリスティーズでオークションに出品。約6,395万ドルで落札される |
2021年3月 | ジャック・ドーシーのツイートがNFTとして販売 |
2021年3月 | せきぐちあいみさん初のNFT1300万円で落札 |
2021年4月 | BoredApeYC販売開始 |
2021年5月 | Meebits販売開始 |
2021年6月 | PleasrDAOがDOGEミームを1,696ETH(5億円)で購入 |
2021年7月 | Twitterから公式NFTを発表 |
2021年8月:さらに拡大し、一気に40億ドルへ
◉2021年8月の主なニュース
2021年7月下旬〜8月 | Axie Infinityが爆発的に流行する |
2021年8月 | Generativemasksがリリース。日本国内での最大売上を達成 |
2021年8月 | VISA社がCryptopunksを15万ドルで購入 |
2021年9月〜:その後も20〜30億ドルを推移
◉2021年9月〜12月までの主なニュース
2021年9月 | 日本の高校生がbotでNFTを販売、1晩で約1億円稼ぐ |
2021年10月 | TikTok NFT参入 |
2021年10月 | Facebook社が社名を「Meta」に変更 |
2021年12月 | AdidasがBAYCとコラボ, 4時間で26億円を売り上げる |
2021年12月 | NIKEがCloneXを買収で、NFT価格が高騰する |
2021年12月 | 手塚治虫プロダクションからリリースされた初のNFT「鉄腕アトム」が120ETHで落札させる |
2022年
2022年のNFT市場はその年の取引量推移からもわかる通り、激動であったいうことがわかります。
1月には取引数量が過去最高の60億ドルを記録した一方で、6月には数億ドルまでその市場規模が縮小してしまいました。また、10月にはブルームバーグからNFTの取引量が1月のピーク時から97%も減少したとの発表があり、NFTを投機対象のプロダクトとして見ていた人々は徐々にNFTから興味を無くしてしまい、いわゆる「NFTの冬の時代」と言われる年となりました。
2022年1月:取引数量60億ドルを記録
◉2022年1月の主なニュース
2022年1月 | ジャスティンビーバー、BAYCを500ETHで購入(BAYC史上7番目の高額取引) |
2022年1月 | TwitterでNFTプロフィール(PFP)が実装される |
2022年1月 | NFTホルダーだけが予約可能、NYで世界初のNFTレストラン「Flyfish Club」が誕生 |
2022年1月 | “一流NFTだけをまとめた投資信託” Blue-Chip NFT Index Fundが登場 |
2022年2月〜6月:5月まで30億ドル台をキープしていたが、6月に10億ドルへ急減
◉2022年2月〜6月までの主なニュース
2022年2月 | 米国最大のビールブランド「Bud Light」が、新ビールのCMにNouns(NFT)を採用 |
2022年3月 | OpenSea、32名のユーザーが攻撃者からの悪意のあるペイロードに署名しNFTの一部を盗まれる |
2022年4月 | BAYCがネイティブトークン「ApeCoin」をリリース |
2022年5月 | STEPNが大流行、Solanaが24時間取引量で初めてETHを超える |
2022年6月 | 史上初のNFTインサイダー取引容疑でOpenSea元社員を起訴 |
〜2022年11月:6月以降毎月減少していき、11月では3億ドルまで縮小
◉2022年7月〜2022年11月までの主なニュース
2022年7月 | マインクラフト社がNFT参入を否定。関連NFTや暗号通貨のフロア価格が暴落する |
2022年7月 | SudoswapからAMM型のNFTマーケットプレイスが登場 |
2022年8月 | ティファニーがブランド初となるNFT「NTFiff」をリリース。30ETHの価格で250個のNFTが20分で完売 |
2022年8月 | OpenSeaの取引高が5月のピーク時から99%減少を記録 |
2022年10月 | Apple社がNFTサービスのアプリにも従来通り30%の決済手数料を徴収することを発表 |
2022年11月 | 8,000ETH(2370万ドル相当)で購入されたCryptopunksが「最も高価なNFTコレクション」としてギネスに認定 |
海外の主要なNFTマーケットプレイス一覧とその特徴
次に海外の主要なNFTマーケットプレイスとその特徴を紹介していきます。
※以下で紹介しているDAUや売上の数値は、オンチェーンデータから推測したものになります。不確定要素によって、推測値とは異なる可能性があることをご了承ください。
①OpenSea
参考:OpenSea
◉創業者
・CEO-Devin Finzer(Twitter:@dfinzer)
・CTO-Alex Atallah(Twitter:@xanderatallah
◉簡単な歴史
2017年12月 | OpenSeaのベータ版を立ち上げ |
2018年1月 | プレシードにて12万ドルをY Combinatorから調達 |
2018年4月 | シードラウンドにて200万ドルを1confirmationから調達 |
2021年7月 | シリーズBにて15億ドルの評価額で1億ドルをAndreessen Horowitzらから調達 |
2022年1月 | シリーズCにて133億ドルの評価額で3億ドルをParadigmとCoatueらから調達 |
◉ユーザー数
・245万人
・DAU 2万人
◉売上
・2021年度:4億ドル
・2022年度:6億ドル
◉手数料体系
・売却手数料2.5%のみ(買い手からは徴収しない)
◉クリエイターフィー(ロイヤリティ)
・有り
◉トークンの有無
・無し
②LooksRare
参考:LooksRare
◉創業者
・共同創業者 Guts
・共同創業者 Zodd(Twitter:@ZoddLooksRare)
◉簡単な歴史
2022年1月9日 | OpenSeaのアクティブユーザーを対象にLOOKSトークンを(※)エアドロップ |
2022年1月10日 | LooksRareローンチ(資金調達無し) |
(※)トークンを受け取るには、LooksRareでNFTを出品する必要あり
◉ユーザー数
・15.7万人
・DAU:356人
◉売上
・2022年度:5,000万ドル
・総手数料収入:2.5億(20万ETH)の運用割当分-20%
◉手数料体系
・2%
・ロイヤリティが設定されてないNFTの場合、1.5%
・ロイヤリティは取引手数料の25%をシェア
◉クリエイターフィー(ロイヤリティ)
・有り(オプション性)
・ロイヤリティは取引手数料の25%をシェア
・残り95%売り手にバック
・5%買い手にバック
◉トークンの有無
・有り(LooksRare Docs)
・ステーキングをすると手数料収入(WETH)がもらえる
③X2Y2
参考:X2Y2
◉創業者
・CEo-TP(Twitter:@tp_x2y2)
◉簡単な歴史
2022年2月16日 | X2Y2ローンチ(資金調達無し) |
◉ユーザー数
・22.4万人
・DAU:1,555人
◉売上
・2022年度(2月-12月):211万ドル
・総手数料収入:1,050万ドル(8,500ETH)の運用割当分-20%
◉手数料体系
・0.5%(2022年5月から。それ以前は2%)
◉クリエイターフィー(ロイヤリティ)
・有り
◉トークンの有無
・有り(X2Y2 Docs)
④Sudoswap
参考:Sudoswap
◉創業者
・匿名集団
・開発者
zefram(Twitter:zefram.eth (@boredGenius) )
0xmons(Twitter:0xmons(@0xmons))
◉簡単な歴史
2021年4月23日 | NFTマーケットプレイスSudoswapをローンチ(資金調達無し) |
2022年7月9日 | AMMという形式での売買に大きく仕様変更し、再ローンチ |
◉ユーザー数
・3.6万人
・DAU:200人
◉売上
・2022年度:30万ドル
・AMM形式に変更後だけで261ETH相当
◉手数料体系
・0.5%
◉クリエイターフィー(ロイヤリティ)
・無し
◉トークンの有無
・有り(Sudoswap blog)
⑤MagicEden
参考:Magic Eden
◉共同創業者
・CEO-Jack Lu(Twitter:Jack Lu (@0xLeoInRio) )
・COO-Zhuoxun Yin(Twitter:Zhuoxun Yin (@ZhuoxunYin) )
・CTO-Sidney(Twitter:Sidney MagicEden (@sidazhang) )
・Chief Engineer-Zhuojie Zhou(Twitter:Rex l Zhuojie Zhou (@zhouzhuojie))
◉簡単な歴史
2021年9月 | Magic Eden ローンチ |
2021年10月 | シードラウンドにて250万ドルを調達 |
2022年3月14日 | シリーズAにて2700万ドルをParadigm、Sequoia CapitalやSolana Venturesらから調達 |
2022年6月 | シリーズBにて16億ドルの評価額で1.3億ドルをParadigmとCoatueらから調達 |
◉ユーザー数
・122万人
Botという一人で複数のアカウントを所持している割合が、ETH界隈と比べて非常に高い という性質があるので一概にこの規模のリアルなユーザーがいるわけではない
・DAU:8,000万人
◉売上
・2022年度:860万ドル(61.6SOL)
・総手数料収入:2.5億(20万ETH)の運用割当分-20%
◉手数料体系
・2%
◉クリエイターフィー(ロイヤリティ)
・有り
◉トークンの有無
・無し
どのようにロイヤリティを配分するのか論争(クリエイターフィー論争)が勃発
2017年にOpenSeaがサービスを開始した当初、クリエイターが創作するNFTが二次流通市場で取引された際に、取引額の数%がクリエイターに還元されるロイヤリティ(クリエイターフィー)という仕組みは大きな注目と期待を集めていました。
しかし現在、そのロイヤリティという仕組みに対して各所から懐疑的な声が生まれており、各NFTマーケットプレイスもそれぞれ異なった立場を取りはじめているのです。
この章ではNFTマーケットプレイスでのロイヤリティの有無に関して生じた論争に対して、その背景から各社の方針まで詳しく解説します。
ロイヤリティ論争が勃発した背景
そもそもこのロイヤリティ論争が勃発したきっかけは、7月9日にSudoswapという新興マーケットプレイスがロイヤリティを撤廃した安価な手数料設計をしてローンチした後、急速に取引量を伸ばして行ったことが原因でした。
■編集部意訳
NFTの市場構造は、手数料のため非効率な設計になっています。市場でのバイヤー(売り手)は、いつも収支を合わせるために商品(NFT)の値上げをする必要があります。しかしsudoswapでの取引では、他のプラットフォームでの通常の取引がバイヤーに対して7.5%もの手数料(2.5%+5%のロイヤリティ)を取るのに対して、0.5%のみの手数料(ロイヤリティは0%)だけで取引をすることができます。
この出来事が発端となり、NFT業界の中である意味神話化されていたロイヤリティの仕組みが崩されたことで各NFTマーケットプレイスもそれぞれ異なる立場を取っていくことになります。
各社の方針
それではこのロイヤリティ論争に対する各社の方針をみていきましょう。
X2Y2
◉8月26日
買い手が購入時にロイヤリティを支払うかどうかを選択できるFlexible Royaltyという制度を導入。
◉11月19日
OpenSeaでの手数料強制徴収継続の発表を受け、Flexible Royalty制度を廃止しロイヤリティ強制徴収を再開。
LooksRare
◉10月28日
ロイヤリティ強制徴収を辞め、買い手がロイヤリティを支払うか選択できる制度を導入。さらにクリエイターにはロイヤリティではなく、売買成立時のプラットフォーム手数料(2%)の25%を分配すると発表。
OpenSea
◉11月6日
ロイヤリティをオンチェーン上で受け取るためのツールを発表。これによりクリエイターはロイヤリティの割合を自身で決められるようになり、同時に11月8日以降に生まれたNFTコレクションはMagic EdenやLooksRareなどのコレクターが手数料を拒否しているマーケットプレイスには出品できなくなる。
◉11月10日
ロイヤリティ強制徴収を維持することを公表。
Sudoswap
◉11月8日
ロイヤリティをオンチェーン上で受け取ることができる仕組みを導入する予定であると公表。
Magic Eden
◉10月15日
ロイヤリティを何%支払うか(0%も可能)買い手が調整できる制度を導入。
◉12月2日
新規の売り出しを行うNFTプロジェクトにおいては、ロイヤリティを強制徴収することを選択できる仕組みを導入。
NFT界隈
◉11月8日
Yuga Labs共同創業者であるWylie Aronow氏(Twitter:@GordonGoner)も上記のようなプラットフォーマーらのロイヤリティ論争を受け、自身の考察を公表。
主にこの考察の中でAronow氏は、クリエイター擁護派の立場に立っており以下のような主張を唱えているように読み取れます。
- ロイヤリティ文化が無ければ、NFTを発行しようとするインセンティブが薄く、ここまで大きな市場にはならなかっただろう
- NFTはユーザーにデジタル資産を真に所有することを目的にしていると同時に、クリエイターに力を与えることを目的としている。
この主張はNFTプラットフォーマーに対しては勿論ですが、何よりクリエイターへのロイヤリティは支払う必要はないと考えているバイヤー等に向けて発信しているのではないでしょうか。
◉11月24日
ApeCoin DAOがコミュニティ向けのマーケットプレイスを開発する方針を発表。
次に声を上げたのはApeCoin DAOでした。その他にも一部のクリエイターの中では、プラットフォームでの取引手数料をほとんど取らない代わりに、ロイヤリティを従来より高く設定するといった、アーティスト自身が独自でマーケットプレイスを作る機運の盛り上がりが見えはじめました。
AZUKIやCloneX等を含むそのほかのNFTコレクションが、今後どのような取引環境を構築するか、独自マーケットプレイスへの移行は次のトレンドになるのかという市場の動きにも大きな注目が集められています。
これから生き残れるNFTマーケットプレイスとは?
今後、NFTマーケットプレイスが生き残っていくためには「NFT界隈は大きな一つのコミュニティである」ということを再認識した上で、ユーザーの不満を常に解消していくといった方法が考えられます。
この章では、これまでに発生したコミュニティの影響力を感じられる出来事や2022年下半期から注目を集めるようになったNFTアグリゲーターについて解説していきます。
界隈の不満を取り込んだプラットフォーマーが勝者になる
NFTの世界では、コミュニティの声というものは非常に重要視される傾向があります。なぜなら、強固なコミュニティを築くことができたかどうかがNFTプロジェクトの成否に直結するからです。NFTの販売量や、その後の価格の上昇や維持にも、コミュニティの大きさと熱量が必要になります。
これは勿論、NFTを取り扱っているマーケットプレイスに関しても当てはまります。
つまり、コミュニティが抱える不満を取り除き、利便性や熱量をより高めたNFTマーケットプレイスこそが、その時代の覇権を握ることができるのです。
以下では、コミュニティの不満がどのようにして発生したかやマーケットプレイスがどうやってコミュニティの不満を解消していったかを読み取れるような出来事を、時系列に沿って紹介していきます。
2021年12月6日:OpenseaがIPO検討している旨をCEOがインタビューにて発言
この発言にNFT界隈が「コミュニティやユーザーではなくVC(ベンチャーキャピタル)の事しか考えていない」と反発。コミュニティの動きをみて、12月8日にはCEO自らが「IPO計画は誤解であり、正確な報道ではない」とツイート。
2022年1月10日:コミュニティファーストを掲げてLooksRare登場
取引手数料をユーザーに還元するという仕組みが界隈コミュニティに歓迎され、リリースされてから連日の取引量が4億ドルを超えるなど、Openseaを凌駕する盛り上がりを見せた。
2022年2月14日:LooksRare開発チームが自分たちの割当分である売上(30億円)を換金したところコミュニティの大反発を買う
それまで歓迎ムードが漂っていた界隈コミュニティだったが、当時トークン価格が下落調子の局面だったにも関わらずこのような行動をとったLooksRareに対してコミュニティは猛反発。「そのお金はトークン価格を買い支えるために使用するべきだ」との声が上がる。
2022年2月16日:真にコミュニティ100%還元を謳いX2Y2登場
LooksRareの行動が問題にされている渦中、真のコミュニティ100%還元を謳い登場したX2Y2がLooksRareのマーケットシェアを丸ごと吸収し、現在に至るまで業界2位を誇る。
2022年7月9日:SudoswapがAMM型かつロイヤリティ0で再ローンチ
AMM型かつロイヤリティ0%を掲げて再ローンチしたSudoswapがコミュニティに歓迎され、そこから界隈でのロイヤリティ論争が勃発。
アグリゲーターをどこまで取り込めるか
NFTマーケットプレイスが変化が激しい市場の中で生き残っていくには、どれだけアグリゲーターを取り込めるかという点も非常に重要になります。
アグリゲーターとは、「集める」といった意味をもつ「aggregate」から生まれた造語であり、NFTマーケットプレイスの売買状況や価格などをプロジェクト毎に並列で監視できたり、NFTを一括で売買できるプラットフォームのこと指します。
(表)海外の主要なアグリゲーター
アグリゲーター名 | Gem | Blur | Genie |
業界内での立ち位置 | 業界1位 | 業界2位 | 業界4〜5位 |
ローンチ日 | 2022年1月 | 2022年10月20日 | 2021年9月17日 |
その他詳細 | 2022年4月25日にOpenSeaが買収するも、その後プロダクトを統合することなく、引き続き独立し運営される。 | 10月末時点ですでにアグリゲーター内シェア40%超えを達成。 | 2022年6月12日Uniswapが買収。 2022年11月30日にリブランドされUniswap.NFTとして再ローンチ。8つのマーケットプレイス( Foundation、Larva Labs、LooksRare、NFT20、NFTX、OpenSea、Sudoswap 、X2Y2)でのアグリゲートをサポート。 |
また、アグリゲーター間での取引量データをみてみるとその業界の中でも変化が非常に激しく、後発組のアグリゲーターが簡単にシェアを奪っていることがわかります。
(図)アグリゲーター全体の取引量
そして下の図から読み取れるように、2022年12月末のアグリゲーターも含めた全体の取引量をみてみると、海外の主要アグリゲーターであるBlurだけでも全体の50.7%を占めていることがわかります。Blurは2022年10月20日にローンチしたばかりのアグリゲーターではありますが、すでに年末までにはマーケットプレイス側も無視できない規模の流動性や影響力を持つようになりました。
(図)アグリゲーター含む全体の取引量
NFTアグリゲーターが業界の中で存在感を出し始めた一方で、アグリゲーター自体の完成度はまだ初期段階にあるといった声もあります。特に、コントラクトアドレスの取得、メタデータの更新やその他の拡張機能など、テクノロジーの面においてまだ最適化の余地があり、今後NFTマーケットプレイスがこのアグリゲーターをどのようにして取り込み、どれだけ技術的な進化を遂げるための投資をするのかが、今後の各社の業界での立ち位置に大きく影響を及ぼしていくでしょう。
NFTマーケットプレイスの次のトレンドを予想してみた
前章では、マーケットプレイスは常にコミュニティの不安を解消していく方向に進んでいくということをお伝えしました。では最後に、それを踏まえた上でNFTマーケットプレイスの次のトレンドを予想してみましょう。
結論として現在勃発しているロイヤリティ論争を終結させる方向に動いていくのではないかと考えています。もう少し具体的に説明すると、技術的な側面では「ロイヤリティをオンチェーンで徴収処理」するトレンド、そしてビジネス的な側面では「Bluechip NFTでの独自マーケットプレイス開設」という2つトレンドが生まれると予想しています。
それでは以下で、各側面のトレンドについて詳しく説明します。
技術的なトレンド:ロイヤリティをオンチェーンで徴収処理
まず前提として、これまでNFTを構成しているコントラクトにはロイヤリティを分配する仕組みは実装されていませんでした。では、どのようにしてロイヤリティを分配していたかというと、各プラットフォームで計算を行い、都度付与という形をオフチェーンで処理していたのです。
つまり、クリエイターにロイヤリティを分配するかどうかの決定をマーケットプレイスが独自に判断していました。このオフチェーンでしか処理できなかった技術的な背景こそが、そもそもロイヤリティ論争が生まれてしまった原因とも考えられます。
しかし、この論争にある種の終着点を示してくれたのが、11月7日にOpenSeaが公表したロイヤリティをオンチェーンで強制的に徴収する仕組みです。OpenSeaが公表した内容は、すでに存在しているEIP-2981といった拡張規格を採用することで、この規格を採用しているプラットフォームでのNFT取引であれば、オンチェーン上で強制的にロイヤリティを発生させることができるといったものでした。
EIP-2981とは、ERC-721及びERC-1155の規格で発行されているNFTであれば適用することが可能な拡張規格です。この規格を採用することで、NFTのコントラクト内に販売金額を送信するとロイヤリティの金額と振込み先のウォレットアドレスを自動的に出力することができます。ただ、これだけでは通知機能に過ぎません。そこでOpenSeaは、この通知機能とその金額を支払うことを強制させる仕組みを組み合わせてNFTに導入することで、オンチェーン上でロイヤリティを徴収することを可能にしたのです。
なお、このロイヤリティの徴収方法を既存のNFTプロジェクトに適用するには、発行体が対応したコード(OpenSeaが公表したもの)をNFTのコントラクト内に追記する必要があります。
結局、このOpenSeaの発表がロイヤリティ論争をどのような終着点に持っていくかというと、従来はオフチェーンでしかロイヤリティを徴収できなかったという技術的背景により、マーケットプレイスが異なると二次流通のロイヤリティを受け取れなくなるケース(SudoswapやX2Y2で出品されたケース)がありましたが、このオンチェーンでロイヤリティを強制的に徴収する仕組みをが生まれたことによって、クリエイター自身がその仕組みを自分の作品に採用するかしないかという決定を下せるようになったのです。
11月7日にOpenSeaが公表したオンチェーン上でロイヤリティを徴収する仕組みが技術的に転換点となり、これからの業界が進むべき業界のトレンドを大きく決定づけたと言っても良いでしょう。
ビジネス的なトレンド:Bluechip NFT独自マーケットプレイスの開設
またロイヤリティ論争の終結に向けて、ビジネス的な側面ではBluechip NFTによる独自マーケットプレイスの開設といったトレンドに注目が集まっています。
このトレンドが生まれた発端は、11月24日にBAYC関連専用のNFTマーケットプレイス「ApeCoin Marketplace」が誕生したことでした。
ApeCoin Marketplaceとは、ApeCoinを発行したApeCoin DAOがSnag Solutionsと提携しリリースされたBAYCシリーズのために特別に構築されたもので、ApeCoinのステーキングや、NFTメタデータの統合などのサービスも提供しているNFTマーケットプレイスです。
このApeCoin Marketplaceの大きな特徴の1つは、取引手数料が安く設定されている分、クリエイターに配分されるロイヤリティが高く設定されているという点です。実際のNFT取引手数料はETH建ての取引で0.5%、ApeCoin建ては0.25%しか発生しません。逆にロイヤリティの配分は高く設定されています。基本的にBAYCシリーズのNFT取引であれば2.5%、さらにその中でもOtherside関連のNFTであれば、ロイヤリティは5%の割合でクリエイターに還元することができるのです。
また、ここで発生する取引手数料はApeCoin DAOに付与されることになっており、その資金はマルチシグウォレットで保管され当組織の運用やガバナンス費用に当てられるそうです。
ロイヤリティが無くなることによる弊害を考えてみると、それはロイヤリティ制度を魅力と感じクリエイターとなった者(発行元)をマーケットから排除してしまうことではないでしょうか。結局NFT業界は、クリエイターが作品を作っているからこそ成り立つと考えられ、クリエイターがこのエコシステムからいなくなることは、NFTの供給源が断たれ、経済圏が崩壊してしまうことを意味します。
つまり、このApeCoin DAOによるApeCoin Marketplaceの開設は、コミュニティがロイヤリティを通じてクリエイター(発行元)を保護する動きだったのです。
そしてこのApeCoin Marketplaceの開設をきっかけとして、AZUKIやCloneX等を含むそのほかのBluechip NFTとして知られるコレクションが、今後どのような取引環境を構築するか、独自マーケットプレイスへの移行は次のトレンドになるのかという市場の動きにも大きな注目が集められています。
最後に、マーケットプレイスを含むNFT市場はまだ発展途上段階にあります。技術の進歩や新しい用途の発見により、今後も変化していくことが予想されるため、市場の動向を注視しながら、今後の展開を見守っていく必要があります。